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先人のレトロ画家たち

30年以上前、偶然チャンネルを合わせたNHKの教育テレビ(今はEテレ とか言うのね) が始まりだった。

作家の阿刀田高氏が出ていて、子供時代の読書について話題にしていた。そこで確か 「アラビアンナイト」の物語の話をされていたと思うが「その本に『蕗谷虹児』さんと いう画家が挿絵を描いていて・・・」などと仰っていた。

同時に画面に映し出された その挿絵を目にしたとき、わたし自身の幼少期の記憶が 突然!蘇ってきた。はるか昔、自分もこれと ほぼ同じ絵本を眺めていた憶えがある。 漠然とながら、その絵本を読んでいたという記憶。少し調べてみると、エキゾチックな アラビア風の装束の少年が 駱駝に乗った表紙のものの初版(「船乗りシンドバッド」 のエピソード)が昭和25年発行らしい。その時分たぶん阿刀田氏は10代半ばごろなので、 そういうものを読まれていたのではないか。そして(思い違いでなければ)その10数年 のち、幼児のわたしも同じ絵本に親しんでいたのかもしれない。

幼かった当時はもちろん「蕗谷虹児」という名を認識してはいない。しかし遠い過去に 馴染んでいた あの挿絵の描き手が そうした名の画家と知ると、無性に作品を見に 行きたいという思いが昂まり 数日後には上越新幹線で新潟へと向かい、新発田市に ある その記念館を訪れたのだった(当時まだGoogle検索などの手段は無かったのに、 どのようにして調べて情報を得たのか 今となってはわからないが)。 偶然に点けたテレビで名を知った その人の絵を見たくて、ただそれだけの理由で。

いかにも 蕗谷氏の表現しそうなメルヘンチックな外観を持つ記念館で、たっぷりと その世界観が醸す空気に浸った。原画には けっこう修正跡が見られ、スムーズに作品を 完成させるタイプではなかったかもしれないが、却ってそのほうが完璧に仕上げるより 努力と手間を惜しまぬ人柄が感じられるような気がする。

その訪問をきっかけとし、明治末期から大正を経て 昭和初期に至る時代の画家たち の作品を 機会あるごとに見に行った。同時期の作家ーー竹久夢二をはじめ高畠華宵や 武井武雄 など。少し時代がくだって中原淳一なども。

加藤まさを という画家も好きで、虹児と年齢も活躍時期はほぼ同じで画風も似ている。 でも最初 30年余り前、 遠方の記念館まで足を運ぶまでに 心情を駆り立てた蕗谷 虹児という人が やはり自分にとって「一番」かな。今でも「アラビアンナイト」という 言葉を見たり聞いたりすると、真っ先に 幼き日に見たあの絵本の挿絵が 頭に浮かぶ。

ちなみに童謡「花嫁人形」の作詞が蕗谷虹児 というのも遅ればせながら知ったのは ずっと後のこと。しかし面白いことに くだんの アラビアンナイトの中の情景を彷彿と させる「月の砂漠」を作詞したのは、加藤まさをさん なんですよね。